最近の【全合成・反応機構】 "Total Syntheses of Rhodomolleins XX and XXII" (1)
最近の全合成から。
Hanfeng Dingらによる、Rhodomolleins の全合成。
反応機構の個人的な解説。
Hanfeng Dingらのグループ
Yu, K.; Yang, Z.-N.; Liu, C.-H.; Wu, S.-Q.; Hong, X.; Zhao, X.-L; Ding, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 8556.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/anie.201903349
反応機構を書きたくなったので、rhodomollein類の全合成を載せてみます。
1工程目:福山先生らの1ポット-Claisen転位 ref 1)
ref 1) Tokuyama, F.; Makido, T.; Ueda, T.; Fukuyama, T. Synth. Commun. 2002, 32, 869.
触媒量の酢酸水銀と酢酸ナトリウム存在下でビニルエーテルを作用させると、アリルアルコールのClaisen転位が1ポットで進行する反応です。
まず、最も電子豊富なビニルエーテルのオレフィンに対して、アセテートが脱離するように酢酸水銀が反応し、4となります。続いて、酸素原子からの電子押し込みにより、三員環が開環し5が生じます。
アリルアルコール6のヒドロキシ基が5に求核攻撃し、7になります。次にブタノールの脱離でオキソカルベニウムカチオン8へと導かれ、酢酸水銀の脱離によって、9となります。
9を立体的に書き表すとTS9と書け、六員環遷移状態でClaisen転位が進行し10および11となります。TS9で立体障害の大きいアリール基がエクアトリアル配向するため、生じるオレフィンはE体となったと考えました。
2工程目:Roskamp homologation
Lewis酸存在下、α-ジアゾエステル(あるいは反応性の低いカルボニル種)とアルデヒドを反応させて、β-ケトエステルを合成する反応。
遷移状態TS11をとり、アルドール反応が進行します。続いて、14の配座から窒素の脱離を伴いながらヒドリドシフトが起こり、15となります。
合成の序盤で、触媒量とはいえ水銀を使うのは、他に代替案が無かったものかと考えてしまいました。
これからは、過去の合成も含めて解説していきたいです。